「順応」が、反応を妨げる。
人間には、遠い昔の祖先から連綿と受け継ぐ「本能」があります。
そのほとんどは「人間」になってから獲得したものではなく、
- 木の上で暮らしていた頃
- 4つ足で歩いていた頃
- 中には海で暮らしていた頃に獲得した能力や得体の知れない小さな生物だった頃
から受け継ぎ続けているものもあります。
そんな本能の中に「順応」という生物学的反応があります。
「順応」とは、慣れ親しんだ状況で無視するべき事柄を自ずから無視できる能力です。
私は目が結構悪いのですが、子供の頃から目玉の水晶体が汚れていて、いつも目玉の中にゴミが浮いているような状態です。
大したことないのですが飛蚊症の一種で、子供の頃は晴れた空などを見上げると視界の端にフワフワと埃が舞っているように見えました。
焦点を合わせてその正体を見極めようとすると、ドンドン逃げて行って、いつまでたっても見極められません。
最初の頃は気になって気になって、授業中にどえらい顔をして目をぐるぐる回していたらしく、ふと気づくと先生が恐怖のまなざしで私を見つめていた、ということが何度かありました。
今でも水晶体は汚れたまま。
というより子供の頃より酷くなっています。
けれどちっとも気にしていないし、日々の暮らしの中で不便に思うこともありません。
ただ本を読んでいると「相変わらず埃だらけだな」なんて思っています。
私がこの「水晶玉の汚れを気にしなくなった」のは発症から2年くらい後でしょうか。これが順応です。
さて、今回特筆すべき順応は「嗅覚」にあります。
自分のニオイは分からないモノ。
野生で生きていかなければならない。
そして自分のことを喰ってやろうと考えている捕食者がどこかにいる、という状況。
そんな状況下で人間に限らずあらゆる生物は、身を守るために必死にアンテナを研ぎ澄ませます。
例えば聴力。
外敵に存在を知らせるような物音を自分からは立てず、逆に遠くの音を聞き分けるために聴力を発達させる生物がいます。
例えば視力。
遠くが良く見える、夜目が効くなど、視力が己を助けることも多いでしょう。
そして嗅覚。
捕食者の「ニオイ」を知っていて風向きが良ければ、逃げ出すのに充分な距離から捕食者の接近を知ることが出来ます。
生存していくために「嗅覚」は、ひょっとすると最も大事な機能なのかも知れません。
しかし、自分もニオイを発散している。
そのニオイが好きか嫌いかは別として、自分のニオイが強くて、しかもいつもそれに煩わされていたら、敵の接近に気が付かないかも知れません。
だから身近にあるニオイは「選択的に」感知しない方が良い。
これが嗅覚に於ける「順応」です。
群れを成す動物の場合、自分のニオイだけでなく、仲間のニオイに煩わされることも許されません。
いつも身を寄せて生きる仲間たちのニオイがいくら強くても、そのニオイを無視して遠くの敵のニオイを察知出来なければ、群れは一網打尽に捕食者の餌食。
だから普段一緒に暮らしている仲間のニオイに対しても、自分のニオイと同じく順応していく必要があるのです。
現代日本人にも受け継がれる嗅覚についての順応
現代生活の中でも私たちは順応しながら生きています。
例えばニンニク料理を食べた後、他人が感じるほどにニンニク臭さに悩まされるのなら、二度と餃子等は食べなくなるでしょう。
自分の口とかカラダこそ一番臭く感じるはずなのに、食べた後は自分のニオイはワカラナイ…実はニンニクはすり潰されることによって「アリシン」という硫黄系物質が出来上がり、それがあの独特のニオイを生んでいます。
猫のオシッコ等もアリシンに近い臭気ですから、そんなもの胃から上がってきたら、悶絶するはず…でも最初はともあれ、いつまでも感じるわけじゃない。
体臭は分からない。けれど足のニオイは分かる
体臭もそうです。
特に上半身の体臭は自分ではわからない。
これ、順応が効いているからです。
対して、足の臭いや股間のニオイは、よく分かる。
何故ならいつも身近に漂っているわけじゃなくて、靴とかパンツの中にニオイが閉じ込められていて、それが解放されたときに嗅ぐわけですから、順応していないというわけ。
例えば靴下もパンツも履かないで暮らしていたら、順応すると思いますが実験したわけではないので分かりません。
そういうわけで、特に上半身のニオイは自分では気が付かない人が多いという事実。
加齢臭は誰にでもある。それも知らない間に。
40代に入った途端に加齢臭はやってきます。
男女問わず、もう決まりきったこと。間違いありません。
もちろん程度の差はありますけど。60代以降の人の体臭だと誤解している人が多いようですが、加齢臭物質の大量分泌・生成が始まるのは40才と覚えておいてください。
60代以降の体臭は、加齢臭+熟年臭というべきものです。
仕事柄、来客はもとより街ですれ違う人からコンビニの店員さんまで、どうしても「ヒトのニオイ」を感じ取ってしまいます。
そしてこういう仕事をしていると様々な人々が当社を訪れます。
特に中年以降の方。
中年以降の、特に男性はお話をしてみると「自分は体臭と無縁」という思い込みを持っている方が多いようにいつも感じます。
私は、個人の体臭を「悪いニオイ」「良いニオイ」という括りで選り分けることはしませんが、やはり皆さんにご自分の体臭の真実を知っていてほしいとは思います。
そんな時「年代を重ねるごとに体臭原因物質の分泌・生成は加速する」という事実を、早く世の中に知らしめなければと、気が焦ります。私の使命と思っていますし。
徐々に自分の体臭が悪化しているのに、順応が邪魔して自分の体臭が分からない。これが加齢臭の問題なのです。
お母さんは汗臭いだけと言う。けど友達に激クサと言われた。ホントはどっち?
家族単位で暮らしていると、家族はアナタのニオイに順応しています。
だから会社の同僚や友達の反応と違って当たり前。そして家族以外の意見こそ、第三者の気持ちの代弁です。
「家族だから気を使って、ひどい言葉で指摘しない」ということも考えられますが、どちらにしても順応の効いている人物の意見は参考にしない方がよいでしょう。
家族は同じ体臭になることも…
また同じ食事をして同じような環境で暮らし、遺伝子情報も近ければ、家族は似通った体臭の原因因子を持っていることになります。
もちろん「お父さんクサイ」は別な原因である場合が多いですけど。
ですので家族間で似通った体臭があれば、強固な順応が働いてしまいます。
とは言っても、友達や同僚に「自分、クサイっすか?」と聞いて、本当の所を話して貰える可能性も少ないのが現実。
体臭が強いということが何か悪いことのように思われている現代という時代が悪いのでしょうが、本当の真実を知るためには、どうしたら良いのでしょうか?
「客観的に」「数値的に」「比較対象と比べて」という立場で、あなた自身の体臭の真実を知ることが体臭を改善する最初のステップだと言えます。
結論
順応というのはホントに不思議です。
一番身近にいる「自分自身」が「自分自身の体臭」について分からないというのですから。
もちろん、前記のように家族間でも順応が働き、お母さんお父さんもアナタの体臭が分からないということも知っておく必要がある。
さらに言えば、思い込みがアナタ自身の体臭感知を妨げています。
体臭検査では自己申告型の依頼表を書いていただくのですが、その中に「どの部位のニオイが気になりますか?」という質問があり、その答えの多くが「脇の下」となっています。
実際に首回りや背中の方の臭気強度が強かったり、嫌なニオイだったりする人の多くも脇の下を悪者にしている。
「脇の下=クサイ」という先入観があり、それが思い込みとなって、自己感知を阻害しているということ。
だからそういう方たちは意味もなくワキガクリームなどを使っている。
ワキガではなく脇の下よりも他の部位の方のニオイが強ければ、ワキガクリームを塗っても効果が見られないのも当たり前ですよね。
だから第三者の感応判断が必要なのです。
順応や思い込みを一切排除した状態なら、アナタの「何処」がクサいのかがはっきりします。
それが出来るのは当社の「体臭検査」だけです。